ゼオライト触媒技術を活かして、燃料や化学品原料のグリーン化を実現

iPEACE223株式会社

事業概要

iPEACE223は2023年に設立した東京工業大学(現 東京科学大学)発のベンチャー企業です。化石資源(石油や石炭など)から、バイオマス(植物や動物由来の資源)を使った原料への転換により、環境への負荷を低減し、持続可能な社会への貢献を目指しています。合成樹脂や石油化学製品の基礎原料等として使用されることが多い「プロピレン」は化石資源由来のナフサクラッカーで製造することが一般的ですが、CO2排出量が多いことからグリーン化が課題とされています。当社はバイオエタノールからバイオプロピレンを製造するプラントの開発を行っており、独自のゼオライト触媒によりエチレンを直接プロピレンに変換することが可能となります。今後この技術の確立と実用化に向けて、触媒開発とプラントの基礎設計を行い、ベンチプラントでのPOCを実施後、JV設立を通じた製品供給、ライセンスビジネス、触媒販売等を展開する予定です。

研究拠点は東京科学大学すずかけ台キャンパスにあり横井教授の協力を得て触媒性能の向上、触媒製造のスケールアップの予備検討を実施しています。2025年中の稼働を目指したベンチプラントの建設を進めており、バイオプロピレンやバイオLPGを試作する予定です。

マネージメントインタビュー

瀬戸山亨
代表取締役CTO

会社設立まで

三菱ケミカルで触媒開発をいろいろ経験しましたが、大きく分けると20世紀は石油化学向けの触媒プロセス、21世紀はグリーン化学品の製造を目的とした人工光合成やバイオマス化学品製造プロセスを主な対象としてきました。

手掛けた触媒の大半は固体触媒でありながら分子レベルで構造設計できるゼオライトを対象として、国内外のアカデミアのゼオライト研究者と協力して新触媒・新反応を手掛けてきました。

その中でChief Scientific Officer(CSO)の横井教授との共同研究は師匠にあたる辰巳先生(東工大名誉教授)の時代を含めると30年以上の歴史があります。その成果の一つであるETP反応(Ethylene To Propylene)は、その特異な反応機構と触媒性能、及び水素化再生という発明というより、“科学上の発見”を排他性の高い特許にできたことで、最も気に入っているものです。エチレンとプロピレンは石化品としては価格がほぼ同じな為、その経済性を主張しにくいのですが、水素化してLPG代替物に変換するという視点での事業展開を構想し、またカーボンニュートラル化に向けた強い潮流もあり、2023年8月に起業するに至りました。

設立後の日々

三菱ケミカル時代の発明は、ほぼ自由に利用できる契約下で、まず触媒性能の再現を完了し、2025年中の稼働を目指し、数10トン/年の生産規模相当のベンチプラントの準備を進めています。スタートアップであることによるスピード感、機動性は決断するまでのステップが少なく冗長性が排除されている結果として実感できます。具体的な事業化の為にはグリーンプロピレンやグリーンLPG代替物のpotentialカスタマーや、投資を考えてくださる方達との交渉も大きな仕事の一つですが、この技術の面白さ、事業としての将来性を納得してもらい肯定してもらえた時は満足感を味わうことができますね。一方、自分の経験・知識・開発方針等を、開発担当者になるべく短期間で正確に伝え実行動に移してもらうことを、この年齢(67歳)になってやるのは楽しい反面、結構苦労しています。若手研究者の育成というのはスタートアップの必須事項だと改めて思う今日この頃です。

今後の事業展開

まずは、2028年ごろに固定床小規模商用設備(1000~トン/年)でのグリーンLPG事業を開始したいと考えています。固定床のスケールアップ規模は1万トン/年程度と考えており、それ以上の規模は流動床プロセスになると考えていますが、それによる大型商用機の実用化は2030年頃を予定しています。

グリーンLPG代替物は、高価格が期待できるフロン代替冷媒、特殊用途(カセットコンロ、半導体洗浄剤)や、山間部・寒冷地の家庭用プロパンガスを小規模商用機に考えています。一方、純度の低いプロピレンで製造できるアクリル酸、その誘導品であるSAP(超吸収性ポリマー)は、バイオプロピレンのLCA的な強みが生かせる中規模生産量の化学品と位置付けることができます。10万~トン/年の生産量になるとカーボンニュートラルへの貢献が大きくなることが期待できますが、エチレン/プロピレン比を自由に調整できることから、ナフサクラッカーを代替することもできます。

バイオエタノールの安価調達が可能になれば、完全に石油化学の代替プロセスにもなりますし、同様にグリーンLPGが現在の化石資源由来のLPGと等価格になればHEVにE-fuelとして導入可能になります。グリーンプレミアムをあてにしていてはカーボンニュートラルへの貢献は限定的です。化石資源由来の化学品、燃料と等価なコストで事業展開するのが最終目標です。

UMI担当者コメント

当社への投資後のハンズオン支援に従事しております。取締役会や経営会議への参加、想定顧客企業との協業、資金調達などの支援をしております。当社のETP反応にて高選択率で得られるバイオプロピレン、さらに、それを可能とする触媒技術により、化学産業のカーボンニュートラルの実現に大きなインパクトを与える企業になることを期待しております。

木島哲史

アソシエイト

当社の事業戦略策定サポートを行なっております。世界と日本のプロピレン、バイオ化学品の市場動向、サプライチェーン、市場ニーズや規模をきちんと把握し、経営メンバーと協議を重ね、事業計画を立てております。

伊里古玛 Yiliguma

アソシエイト