温室効果ガスを化学品や材料に変える菌株を作る
Industrial Microbes (iMicrobes)は、メタンやエタン、CO2、バイオガスといった温室効果ガスから化学品や材料を作り出す微生物を設計し構築する技術を有します。安価な温室効果ガスを利用するため、既存の化学プロセスに比べてより安価に生産出来、CO2排出量を抑えることもできます。
Industrial Microbesは世界で初めて、大腸菌などのこれまで広く産業利用されてきた宿主をバイオガスや天然ガスを利用できる菌体へと作り変えることに成功し、画期的なブレークスルーを達成しました。この成果をベースに、世界一プログラムしやすい温室効果ガスを食べる微生物“Omitroph ™”を発明しました。これらの技術は独自性が高く、米国で2件の基本特許が成立し、他国でも特許出願されています。
加えて本発明は商業的にも大きなブレークスルーをもたらします。なぜなら従来原料として用いられてきた糖はバルクケミカルやポリマーを生産するには高価で、化学産業におけるバイオテクノロジーの成長を妨げる要因となっていたからです。更に、当社独自の酵素と既知の化学合成経路を組み合わせることで、研究開発費を抑えつつ成果創出の加速化も可能になります。
衣類用の繊維、プラスチック、自動車用タイヤのゴム、おむつ、塗料、コーティング剤、炭素繊維など日常で使われている材料の多くが当社技術によって作り出せるようになり、巨大な市場へのアプローチが可能になります。
化学産業は膨大なエネルギーを必要とし、CO2排出量の多い昔ながらの技術に依存しています。当社技術により、化学産業をより効率的かつよりクリーンなものへと変えられます。Industrial Microbesはマーケットリーダーと共に、時代のニーズにマッチした製造への転換をサポートしていきます。
Industrial Microbesは、12年間共に働いてきた3人の博士、Derek Greenfield(現CEO。ハーバード大学生物物理学博士)、Elizabeth Clarke (現CTO。UCSF生物物理学博士)、Noah Helman (現CPO。スタンフォード大学応用物理学博士)によって設立されました。
設立前、創業者の3人は、合成生物学のリーダーが設立した再生可能燃料や化学品を開発するLS9に勤めていました。LS9では、バイオディーゼル燃料と脂肪酸アルコールを生産する商業用の菌体とプロセスを開発するチームメンバーでした。当時のプロセスでは13.5万リットルの発酵槽で、数トン規模を生産していました。製品仕様を満たし、効率的な製造に成功していたものの、プロセスの商業化は困難でした。
そこでIndustrial Microbesは、温室効果ガスのような新しくかつ安価な原料を利用した発酵法を再構築するために設立されました。製品生産時に原料として利用することで温室効果ガスを削減することは極めて重要であり、同時に巨大な化学品市場に打って出るには、グリーンプレミアムをあてにしてはいけません。
Industrial Microbesは、Emissions Reductions Albertaが支援するCO2の画期的な利用方法を開発するコンテスト“Carbon Grand Challenge”からの補助金を受けて設立されました。最初の年は、研究室の立ち上げ、Y Combinatorからのプレシードの資金調達、コア技術の開発を行っていました。少ない予算で、初挑戦のことがたくさんあり、会社設立当初は大変でしたが、同時にあらゆる可能性があり、とてもエキサイティングでもありました。素晴らしい仲間と共に切磋琢磨し、多くの学びを得られたことは何よりも嬉しかったです。
Industrial Microbesは大手化学企業とのパートナーシップを通じて、製品を商業化していくことを考えています。大手化学企業は市場に通じており、大規模生産に必要な投資力を有しているからです。当社では様々な化学品や材料をターゲットに、グローバル企業と複数の連携を行っています。最初のターゲットとして考えているのは、塗料やコーティング剤、吸水性ポリマーなど多くの製品展開が期待できるアクリル酸です。当社では、詳細なエンジニアリングモデルにより、大幅な低コスト化と50%以上の温室効果ガス削減が可能であると想定しています。当社技術を用いて、世界規模の工場で生産すれば年間1億ドルのコスト削減が可能です。
当社の発酵技術により、様々な化学品や材料をより安価に生産できるようになります。この新しい商業化プロセスの実現を、長期的なビジョンを持った強力なパートナーと一緒に進めていきたいと考えています。ぜひ日本企業の皆様と協業していければと思います。
UMI担当者コメント
投資後の支援に従事し、日本国内における協業支援を行っております。
化学業界において脱炭素は大きな課題となっている中、当社は微生物設計技術とガス発酵技術により、その課題解決を目指しております。また、既存の化学製品より安価に生産が可能であるため、経済面及び環境面で高い技術競争力を有しております。今後CO2削減技術の需要の増加により、当社技術は更に多く利用されることが期待できます。
沈相勲
アソシエイト