インタビュー

マネジメントの重要性が高い
メーカービジネスに挑戦する

リファインバース株式会社
代表取締役社長

越智 晶

2003年に設立されたリファインバースは独自の精密加工技術を開発し、従来はすべて埋め立て処分していた使用済みカーペットタイルから合成樹脂素材を取り出し各種メーカーに販売する複合材リサイクルの商業化に成功した素材系ベンチャー企業です。2016年にIPOを達成し、現在はカーペットだけでなく、廃棄された漁網やシリコンコート付きエアバックからリサイクルナイロン素材を生成し、アパレルメーカーに販売するなど益々ビジネスを拡大しています。

リファインバース株式会社 https://www.r-inverse.com/

マネジメントの重要性が高いメーカービジネスに挑戦する

実家が自営業で、周囲に会社勤めの人もいなかったからか、漠然と、将来は自分で事業をやりたいと思っていました。その気持ちは変わらず、就職面接でも伝え続けたところ、商売っ気があって頼もしい、但し5年は続けるという約束で、化粧品メーカーに入社しました。

在職中、大前研一氏の「アタッカーズ・ビジネス・スクール」に通い、当時の起業家による講義で様々なビジネスを知りました。事業をやってみたいが、技術があるわけではない自分は、何で独立出来るだろうかと模索していました。大前氏が、学校だけでなく、日本全国から優秀な起業家を発掘し、投資、ハンズオンをして事業の立ち上げを手伝う「大前・ビジネス・ディベロップメンツ」を設立されたので、そこに参画することにしました。

大前氏のもとで投資家として、色々な経験が出来たこと、様々な会社を見られたことは、私にとって非常に大きかったです。自分に技術があるわけでも、とがった専門性もなかったため、テクノロジーが関係ないビジネスも考えましたが、差別化や拡大が難しいのと、事業として面白いと思えるものがありませんでした。そんな中、技術があってもマネジメントが出来ていないベンチャーであれば、文系の自分が活躍できる余地があり、一緒にその事業を拡大していければ、自分がやる意味はあると考えました。

特に素材・化学産業はメーカービジネスであるため、マネジメントの重要性は高いと感じます。メーカービジネスは研究開発から始まり、製造、営業、管理と、会社機能がフルで必要です。各セクションをうまく機能させなければ事業が進展しないため、マネジメントの重要性が他の業界に比べて高いと思います。

事業と自身のポテンシャルを見極める

リファインバースの前身である御美商(現 GMS)は、産業廃棄物の回収を行っていました。廃棄物から素材を作るリサイクル事業を新たに始めるところに投資が決まり、ハンズオン支援で取締役として入りました。事業内容に社会的意義があり、ユニーク、産業廃棄物を扱うためあまり人がやりたがる分野ではないこと、一方で産業廃棄物処理のマーケットは大きいため、未経験であっても比較優位性が持てるのではないかと考えました。ちょうど京都議定書で環境問題が注目され、リサイクルの重要性が高まっていたことや、原油価格が上がり、廃棄物を原料に素材を作れることは、ビジネスとしてのポテンシャルも高いと考えました。業務に携わっていく中で、ここでチャレンジしたい気持ちが強くなり、当時の社長からオファーを頂き、副社長として参画を決めました。当時32歳でした。

入社後は、会社機能を設けるところから行いました。お客様からの電話を受けて廃棄物を取りに行くスタイルを、営業機能を設けてきちんと仕事を取りにいく形にしたり、管理部門を設けて経理処理をきちんとしたり、各部門にマネージャーを置き、彼らと毎朝ミーティングを行いました。年末には売上が倍になり、社内も徐々に変化を感じるようになったと思います。良くも悪くも社内の空気は読んでおらず、純粋に事業が進展することに喜びを感じていました。

社長になって直面した修羅場

産廃処理からリサイクルへと事業を拡大する上で、「ヒトモノカネ」が集まりやすい仕組み作りが必要だと考えました。産業廃棄物の処理会社ではイメージも含め厳しいだろう、全く新しい会社として刷新した方が経営資源を集めやすいはずだと考え、関連会社3社をまとめ、持ち株会社として2004年にリファインバースを設立しました。社長をやるつもりはなかったのですが、周囲から適任だと言われ、現在に至ります。

その後2006年に、カーペットタイル廃材を素材に再生するための工場を建てました。稼働が徐々に上がっていましたが、まだ赤字の状況下、リーマンショックが起きました。当時は遠く離れた金融機関の出来事であって、日本の小さなベンチャーに影響があるとは思いもしませんでした。そこからは地獄の日々でした。それまでは資金調達にそれほど苦労することはありませんでしたが、一変し、出資してくれるところは限られ、様々な条件を飲まざるを得ない状況になりました。心配した方からは、自分が再起不能になるまでやる必要はないとアドバイスもいただきました。ただ、すでに弊社の素材を原料として、お客様が製品を製造していたため、原料が調達出来なくなることは、お客様の事業にも大きく関わる状況でした。また、出資してくれていたVCや株主、ここまで苦楽を共にしてくれている社員と、巻き込んだ方々への責任を考え、物理的に事業継続出来なくなるまではやろうと決めました。決めた以上、とにかくやるしかありませんでした。

修羅場を乗り越える方法を考え、やってみて乗り越える。どうしようもない状況であっても必ず打ち手はあるので、それを絞り出すことが必要です。精神的に参ってしまうタイプは、思考停止になり、止まってしまうため、経営者にタフさや楽観的な感覚は大事だと思います。

IPOがもたらす効果

IPOは想定の倍の年月がかかりました。元々投資家としてこの事業に投資を決めた時から、IPOは目標でした。ただ、IPOは手段でしかないため、その後の事業欲、事業をさらに花開かせるポテンシャルへの執着、その想いの強さが大事だと思います。加えて、IPOは出資いただいたVCへ約束を果たすことでもあります。弊社はその両方を持ってIPOを目指し続け、2016年に東証マザーズに上場しました。

IPOを達成して言えることは、素材・化学ベンチャーは上場を目指した方が良いです。それはビジネスメリットが非常に大きいからです。

素材メーカーは供給責任が問われます。取引を決める上で、安定調達を継続できるのかが大きな判断基準になります。上場は事業継続性や信頼性の証となるため、大手メーカーとの取引もスムーズになります。また、採用応募者の質が上がり、良い人材が採れるようになりました。それらは事業拡大に繋がり、また次のステージへと進めます。上場は大変なことですが、諦めずに目指して上場することで、その先はより多様で豊富な経営リソースが得られるようになり、経営者としての打ち手が増えることになります。

弊社は、廃棄物を原料として素材を作るリサイクル事業のため、環境課題解決を目的に事業を行っているのか質問を受けますが、他の会社と同様、利益追求のために事業を行っています。弊社の素材が売れることは、原料の廃棄カーペットが多く使われるため、結果としてリサイクル率向上になり、環境問題解決や社会問題解決に繋がるのです。従前は、産業が拡大することで環境破壊が進むなど、ビジネスと環境問題や社会問題は相反関係にありました。今は業界問わず多くの事業が、利益を上げ、拡大することが、環境問題や社会問題の解決に結果として繋がるようになりました。この点でも、事業拡大の意義があります。

素材・化学産業の魅力

素材・化学産業の楽しさ、面白さは、ゲームチェンジが出来る点だと思います。世の中をガラッと変えるまではいかなくても、携わっている領域や業界においては、ゲームチェンジャーになれます。

B to Bビジネスである素材・化学産業は、自社も取引先であるお客様もメーカービジネスです。原料となる素材の研究開発、技術確立、生産体制、販売とひとつひとつを積み上げていくため、時間を要します。この時間がかかる工程を面白いと思える人が、この業界には向いていると思います。2,3年で成果を得るのは難しく、最低10年は必要です。時間はかかりますが、事業が成立する頃には、そこまで積み上げてきた時間と労力がそのまま参入障壁になり、強靭なビジネスが確立出来ます。後から他が追随するのが難しい状況が既に出来ているのです。

また、自社だけが売上を伸ばすのではなく、パートナーであるお客様の事業も拡大していくことが大事です。弊社の場合、10年以上取引させていただいているお客様が多いですが、今もなお、お客様の製造原料となる素材の研究開発から共同で行っています。一蓮托生の間柄です。

素材・化学ビジネスの特徴は、「コストと品質」で決まる合理性です。この2つの要素で売れる、売れないが決まるため、ゴール設定がしやすいビジネスだと思います。感性に左右されないため、流行に惑わされず本質を追求し、コストと品質を考えて進めていけば良いのです。

経営者を目指す人へ

先にお話しした通り、素材・化学産業で事業が実を結ぶには最低10年必要です。自分の人生において、それだけの時間をコミットしたいと思える事業と出会うまでは、探し続けて欲しいと思います。事業内容に加えて、一緒に働く経営陣も大事です。探している中で必ず縁は巡って来ます。本気でチャレンジし、共に企業価値を高めたいと思える事業が見つかれば、迷うことなく進めると思います。

今までのキャリアで投資家を経験して思うのは、ソーシングで様々な会社を見つけ、デューデリジェンスで会社の隅々まで知ることが出来、経営者の人間性までを見られることと、ハンズオン支援で投資先の経営にも携われる機会があること、この両方をVCは兼ね備えています。将来経営者を目指す人に、VCは最適な環境だと思います。私は経営者になる前に投資家を経験出来て、とても良かったです。

会社のトップとして、ビジョンや思いを描き、追求していくことはとても重要です。私の場合、20年前に始めたリサイクル事業が、やっと今、廃プラゴミ問題として、世間に認知されてきました。ビジネスチャンス到来です。自分がコミットして、思いを持ってやってきたことに対して、充実感があります。これはトップにだけ許される感覚かもしれません。

ビジネスが好き、世の中にインパクトを残したい、コミットしてチャレンジしたい、その気持ちと、10年やり抜く覚悟がある方は、早くこの業界に挑戦して欲しいと思います。経営者には体力が必要な場面もあるため、若い方が踏ん張れることもあります。年齢や経験に捉われず、自分がここだと感じたところからです。
ここからの10年が楽しみです。