社会・環境的成果を数値化したUMIの「インパクトレポート2026」

ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター株式会社(以下、UMI)は設立10周年の節目に、「インパクトレポート2026」を発行しました。

これまでUMIは2021年の国連責任投資原則(PRI)への署名以来、ESG投資に取り組んでいます。2025年にはESGレポートを発行し、ESGの視点を投資方針・スクリーニング・実務に反映させる取り組みを続けています。

今回はその歩みをさらに一歩進め、社会・環境課題への取り組みをさらに深化させ、「具体的な成果と責任」を示すために発刊したのが「インパクトレポート2026」です。

本レポートの目的は、社会的インパクトを財務的リターンと切り離して捉えるのではなく、双方を両立させる投資のあり方を明らかにすることです。

ステークホルダーの皆さまに向けて

ファンドを運営するUMIベンチャーズ株式会社は、社会的インパクトと経済的リターンの両立を目指すベンチャーキャピタルです。本レポートでは、投資先スタートアップの事業が生み出す社会・環境的な価値を可視化し、その成果を客観的かつ透明性のある形でステークホルダーの皆さまと共有するものです。

また、スタートアップの皆さまは、UMIとのインパクト算定プロセスを通じて、自社技術や事業が生み出す環境価値を整理・可視化し、事業説明や顧客との対話に活用することができます。

素材・化学スタートアップが生み出すインパクトを可視化

ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動を指し、ESGの観点から企業を評価して行う投資がESG投資です。ESGは「やるべきことができているか」という、いわば「守り」の側面が強いものです。インパクトは、ESGの取り組みを土台とし、環境や社会への変化を能動的に創出する「攻め」の姿勢のあるものです。ESGの取り組みを拡大し、インパクト投資へのコミットメントを強化しています。

UMIの役割は、投資先スタートアップの環境価値を単に外部から測定することではありません。素材・化学分野の技術や製造プロセスへの知見から、投資先スタートアップと共にインパクト創出の因果関係を整理し、その成果を事業成長や市場での具体的な価値に結びつけていく点が特徴です。資金提供に留まらず、技術・経営・市場の観点から多角的に成長を支援する「価値創造のパートナー」としてのUMIの取り組みの一つが、本レポートです。

インパクトは、しばしば定性的なストーリーやナラティブで表現されがちですが、UMIは定量化しました。環境価値はキャッシュフローなどの財務価値には現れず、過小評価されがちです。だからこそ可視化・数値化することが大切であると、UMIは考えています。

インパクト定量化のためのユニットインパクトとは

UMIではインパクトレポートの作成にあたり、投資先スタートアップに対して共通の枠組みでインパクトを定量化できるよう、「ユニットインパクト」を定義しました。

ユニットインパクトとは、新しいソリューションを導入しない場合に想定される従来製品・サービス【従来ユニット】と、スタートアップの新技術・ソリューション【新規ソリューションユニット】について、例えば「製品1トンあたり」といった比較可能な共通の評価単位(ユニット)を設定し、1ユニットを製造する際に生じる環境負荷(ここではGHG排出量、エネルギー使用量、水使用量)の差分を指します。素材・化学分野のスタートアップの環境価値を、定量的に可視化しました。

算定プロセスの6ステップ

ユニットインパクトの算定工程は、次の6ステップからなります。

ステップ1:評価対象の特定

ユニットインパクト算定の最初の一歩は「評価対象の特定」です。UMIでは、製品の製造工程におけるアウトカムを評価対象とし、GHG排出量、エネルギー使用量、水使用量の3つを評価対象としました。

環境負荷という点では、多くの場面でGHG排出量が注目されます。UMIは、投資検討時に製造コストやエネルギーバランスを重視してきた経緯があることからエネルギー使用量を評価対象に加えました。

さらに、素材・化学産業において、水は重要な生産資源の一つです。水の使用量削減は、環境負荷の低減に留まらず、生産効率や持続可能な資源利用という企業の経済価値に直結することから、水使用量も評価対象としました。

ステップ2:ロジックモデルの作成

続くステップ2では、環境課題・社会課題の解決に向けた共通の枠組みであるロジックモデルを作成しました。ここでは、投資先スタートアップが新技術によって実現したい未来について、定性的なインパクトストーリーを整理するだけでなく、共通の枠組みに基づく定量化に挑戦しました。

ロジックモデルによって因果関係を可視化しながら、投資先スタートアップの技術開発がどのような成果を経て、最終的なインパクトにつながるのか。可能な範囲でGHG排出量、エネルギー使用量、水使用量についてユニットインパクトを算定しました。

ロジックモデルは、アウトプット、アウトカム、インパクトの順です。

ステップ3:インパクトストーリーの理解

ロジックモデルを用いて、各投資先スタートアップのインパクトストーリーを組み立てていきます。具体的には、そのスタートアップが解決したいインパクトを特定した上で、そのインパクト創出にはどのようなアウトカムが必要か、そのアウトカムを生み出すアウトプットは何か、因果関係を最終インパクトから遡るバックキャストの手法をとります。

これにより、スタートアップの技術や初期アウトカム、最終的なインパクトの流れを整理でき、ストーリー理解につながります。

ステップ4:システムバウンダリーを用いた分析

ユニットインパクト算定のために、原材料調達から製造、流通、使用、廃棄にいたるライフサイクルの各段階を網羅的に確認します。

UMIが投資検討時に分析する製造工程分析や製造コスト分析などの結果から、従来のプロセスと新ソリューションの差異を特定し、評価対象とする範囲(システムバウンダリー)を設定します。

ステップ5:ベースラインシナリオの設定

システムバウンダリーをもとに、新技術が存在しなかった場合に想定される従来プロセスのGHG排出量、エネルギー使用量、水使用量をベースラインとして設定し、新技術と比較するためのベースラインシナリオを作成します。

ベースラインは、国際機関や各国政府、業界団体などが公表する信頼性の高い公的データを参照し、現在普及している代表的な既存技術から作成します。その際、環境貢献の効果が過度に高く評価されないよう、保守的に検討します。

ステップ6:ユニットインパクトの評価

ステップ5で設定したベースラインシナリオと、投資先スタートアップの新プロセスを比較し、1ユニットあたりのGHG排出量、エネルギー使用量、水使用量の差分を定量的に評価します。この数値が、そのスタートアップがこの世界に誕生したからこそ生まれた環境価値(ユニットインパクト)というわけです。

UMI投資先スタートアップのユニットインパクト事例

インパクト創出に向けた将来展望

UMIは、インパクト投資における客観的な指標を設けるべくユニットインパクトを定義し、その作成過程や分析例を含めてインパクトレポートを発行しました。ユニットインパクトの算定においては、UMIがドラフトを作成し、投資先スタートアップ各社の皆さまと対話を重ねて数値を導き出しました。

一方で、評価範囲を製造工程に絞ったことによる限界や、算定工数とアピール効果(費用対効果)のバランスをどう取るべきかといった、実務におけるシビアな難しさも浮き彫りになりました。今後、方法論や活用法を改良し、意義の大きい分析につなげていきたいと考えています。

また、UMIは2026年4月に金融庁・経済産業省が事務局を務める官民連携のインパクトコンソーシアムへ参画しました。インパクト創出を目指し、データ指標の共通化や市場形成に向けた分科会活動を通じてコミュニティ全体への貢献を進めています。

「インパクトレポート」発行は、インパクトファンドの設立を将来的に見据えた第一歩です。UMIグループでは今後も、さまざまなアプローチを通じて素材・化学の力でインパクトを創出し、持続可能な未来への責任を果たしてまいります。

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(サイエンスライター 島田 祥輔)
※本記事に掲載されている情報は、掲載時点の内容です。